……業界サバイバルと言っても、この出版不況の中、生き残りを賭けた出版社同士の熾烈な闘いといった比喩的な意味の話ではありません。
つまり、これはまさに言葉通りの話なのですが、つまり、最近、我が愛する出版業界人の間では、「サバゲー」―――サバイバルゲーム―――早い話が、「戦争ゴッコ」のお遊びが、密かなブームになっているらしいのです。
戦争ゴッコなんて言うと、怒られちゃうかもしれない。そう、「サバゲー」は高尚な知的肉体的ゲームなのだそうですから。ワタシはやった事ないんだけど、でも、聞くところによると、一度やったら病みつきになって、一気にハマってしまうくらい面白くて楽しいゲームなのだそうです。
普段は業界のあちこちでネクタイにスーツ姿でしかめっ面して仕事している、勤務先も年齢もあれこれ違う紳士たちが、土日の休みになると、皆なそれぞれ趣向を凝らしたコスチューム―――迷彩服姿にヘルメットを被って集まり、敵と味方に陣地を分け、エアライフルなどで撃ち合うんだそうですね。大のオトナたちがキャッキャキャッキャと歓声を挙げながら、遥か昔の少年の心に帰って飛びはねるのです。
もちろん、そんな格好でそんな事を昼日中に都心の街の中でやってたら、世間の一般市民からは大顰蹙を買うでしょう。すわ、北の国の工作員の来襲か、自衛隊のクーデター勃発か、なんて目ん玉ひんむかれて、大騒ぎになるかもしれません。
(実際、とある某出版社では、会社の休みの日に、社員の同好の士たちが自社の建物の中でサバゲーを敢行し、近所の一般市民に誤解されて、通報でパトカーが出動する騒ぎになったらしい)
でも、ご安心めされよ。我が愛する出版業界人の多くの紳士たちは、ちゃーんとその辺の良識とルールを遵守して、休日にわざわざ遠く都心から離れた「相模湖ピクニックランド」なんかに出掛けて、サバゲー専用の特設会場なんかで、皆なで思いっきり楽しんでいるらしいです。そこへ行けば、思う存分、周りに気兼ねなく、エアライフルをブッ放す事ができるそうです。
いいんじゃないですか。こんな楽しい遊び心。
毎日をストレスにさいなまれ、休日といえば、ゴルフと競馬とパチンコで気休め。―――そんな悲しい日常の中に埋没しているオトーサンたちは、古い価値観とがんじがらめの殻を脱ぎ捨てて、この際、思いっきり童心に帰った方がいいのではありますまいか。
そう、ワタシも、今度、仲間に入れてもらおうかな。
2006/06/25
2006/06/10
真の「漢−おとこ−」、梶原一騎伝説
某出版社で現在睨みをきかせる実力派の某取締役氏は、遠い昔の若かりし頃、週刊漫画雑誌の編集者として、あの偉大な漫画原作者、巨匠、故・梶原一騎先生の担当をした事があったのだそうです。
その取締役編集者氏から訊いた、昔の良き時代のエピソードをひとつ……
(コピーもパソコンも携帯電話も無い古き良き時代の伝説です……)
ある時のこと、その若き日の取締役氏は、梶原邸で脱稿したばかりの原稿を拝受し、会社に戻るために電車に飛び乗ったのだそうです。空いていた座席に座り、連日のハードスケジュールからか、ついウトウトしてしまい、ハッと気付いた時には……
「な、無いッ……」
なんと、なんと! 大切な梶原一騎先生の原稿を入れた紙袋を紛失してしまったのでした。盗られたのか置き忘れたのか判らないものの、とにかく、とんでもない事態になってしまいました。
「エラい事だ……上司に何て言えばいいのか……」
動転して真っ青になった若き編集者は、すぐに電車を降り、ホームの公衆電話に手を掛けました。
でも、すぐに彼は、受話器を持つ手を止めました。
「いや、それよりも、まず先生に謝らなくては……」
冷静さを取り戻した彼は、会社への報告よりも、まず、原稿執筆者の当の梶原一騎先生に謝罪する方が先と判断しました。
駅を降りてタクシーを飛ばし、梶原邸にとって返した彼は、梶原邸の玄関の呼び鈴を震える手で押しました。
ドアが開き、書生の男性が出て来ました。その玄関先で、我がヤング編集者は、ガバと平伏し、頭を床にこすり付けました。「申し訳ありません。本当に申し訳ありません……」声を絞り出しました。
やがて、奥から、当の梶原先生も出て来ました。
「ん? 何だ? ○○君、どうした? そんな所で何やってんだ?」一杯入って少し上機嫌になっていた巨匠の声に、若き編集者は、魂を搾り出すようにして答えたのだそうです。
「せ、先生。誠にもって申し訳ありません。私は、先生から先ほどお預かりした大切な玉稿を、自分の不注意で、紛失してしまいました〜」
巨匠の顔色が一変したのが、土下座したまま見上げずとも、すぐに判ったのだそうです。「うっ」という唸り声が聞こえ、次に来るのは、容赦ない蹴りと鉄拳の嵐か……
ヤング編集者は、下腹に力を入れ、どんな罵倒も肉体的制裁をも受け入れる覚悟をしていました。半殺しにされても仕方ない。何をされても、自分はこうして土下座して謝るしかない……
凍りついた時間が過ぎて行きました。意識を失いかけた耳に、巨匠がタバコを銜え、ライターの火を点ける音が聞こえて来ました。
「ふ〜〜〜」巨匠が吐く紫煙が、床にうずくまる編集者の頭上を撫でて行きます。
「……で」
巨匠が初めて口を開きました。「それで、君の上司の……編集長はどうした?」
若き編集者は、頭を床に擦りつけたまま答えました。
「いえ。上司にはまだ報告しておりません。それよりもまず……」
はっきりとした大きな声で言いました。
「何よりも真っ先に、この私が先生にお詫びを申し上げるのが第一と考えました。私の不始末です。私は大馬鹿者です。誠にもって、申し訳ありません!!」
巨匠はしばらく黙っていました。タバコをくゆらしていました。
やがてゆっくりと口を開きました。
「○○君、顔を上げろ」
ヤング編集者は目を瞑り、顔を上げました。殴られても舌を噛まないように、口を堅く結びました。
「何を目を瞑ってんだ。馬鹿もんッ」
一喝され、恐る恐る目を開けました。目の前に、真っ赤な顔をした「鬼」がいました。……しかし、その「鬼」は、慈父のような優しい笑みを浮かべていました……
「まったく、しょうがねぇ野郎だな。まあな、幸い、俺も今夜はまだあまり呑んではいねぇんだ。俺のこの頭の中には、まだ、さっきのあの原稿が残っている……」
鬼の巨匠は、踵を返し、仕事場に向かいました。
「待ってろ。また書いてやる。そのかわり、原稿料は倍付けだぞッ!」
男の真の姿を書き綴り、世の少年たちの心を魅了し、日本が世界に誇る漫画・劇画を進化発展させた巨匠、故・梶原一騎先生は、その実像もまた、本当に真の「漢−おとこ−」だったと言えましょう……
その取締役編集者氏から訊いた、昔の良き時代のエピソードをひとつ……
(コピーもパソコンも携帯電話も無い古き良き時代の伝説です……)
ある時のこと、その若き日の取締役氏は、梶原邸で脱稿したばかりの原稿を拝受し、会社に戻るために電車に飛び乗ったのだそうです。空いていた座席に座り、連日のハードスケジュールからか、ついウトウトしてしまい、ハッと気付いた時には……
「な、無いッ……」
なんと、なんと! 大切な梶原一騎先生の原稿を入れた紙袋を紛失してしまったのでした。盗られたのか置き忘れたのか判らないものの、とにかく、とんでもない事態になってしまいました。
「エラい事だ……上司に何て言えばいいのか……」
動転して真っ青になった若き編集者は、すぐに電車を降り、ホームの公衆電話に手を掛けました。
でも、すぐに彼は、受話器を持つ手を止めました。
「いや、それよりも、まず先生に謝らなくては……」
冷静さを取り戻した彼は、会社への報告よりも、まず、原稿執筆者の当の梶原一騎先生に謝罪する方が先と判断しました。
駅を降りてタクシーを飛ばし、梶原邸にとって返した彼は、梶原邸の玄関の呼び鈴を震える手で押しました。
ドアが開き、書生の男性が出て来ました。その玄関先で、我がヤング編集者は、ガバと平伏し、頭を床にこすり付けました。「申し訳ありません。本当に申し訳ありません……」声を絞り出しました。
やがて、奥から、当の梶原先生も出て来ました。
「ん? 何だ? ○○君、どうした? そんな所で何やってんだ?」一杯入って少し上機嫌になっていた巨匠の声に、若き編集者は、魂を搾り出すようにして答えたのだそうです。
「せ、先生。誠にもって申し訳ありません。私は、先生から先ほどお預かりした大切な玉稿を、自分の不注意で、紛失してしまいました〜」
巨匠の顔色が一変したのが、土下座したまま見上げずとも、すぐに判ったのだそうです。「うっ」という唸り声が聞こえ、次に来るのは、容赦ない蹴りと鉄拳の嵐か……
ヤング編集者は、下腹に力を入れ、どんな罵倒も肉体的制裁をも受け入れる覚悟をしていました。半殺しにされても仕方ない。何をされても、自分はこうして土下座して謝るしかない……
凍りついた時間が過ぎて行きました。意識を失いかけた耳に、巨匠がタバコを銜え、ライターの火を点ける音が聞こえて来ました。
「ふ〜〜〜」巨匠が吐く紫煙が、床にうずくまる編集者の頭上を撫でて行きます。
「……で」
巨匠が初めて口を開きました。「それで、君の上司の……編集長はどうした?」
若き編集者は、頭を床に擦りつけたまま答えました。
「いえ。上司にはまだ報告しておりません。それよりもまず……」
はっきりとした大きな声で言いました。
「何よりも真っ先に、この私が先生にお詫びを申し上げるのが第一と考えました。私の不始末です。私は大馬鹿者です。誠にもって、申し訳ありません!!」
巨匠はしばらく黙っていました。タバコをくゆらしていました。
やがてゆっくりと口を開きました。
「○○君、顔を上げろ」
ヤング編集者は目を瞑り、顔を上げました。殴られても舌を噛まないように、口を堅く結びました。
「何を目を瞑ってんだ。馬鹿もんッ」
一喝され、恐る恐る目を開けました。目の前に、真っ赤な顔をした「鬼」がいました。……しかし、その「鬼」は、慈父のような優しい笑みを浮かべていました……
「まったく、しょうがねぇ野郎だな。まあな、幸い、俺も今夜はまだあまり呑んではいねぇんだ。俺のこの頭の中には、まだ、さっきのあの原稿が残っている……」
鬼の巨匠は、踵を返し、仕事場に向かいました。
「待ってろ。また書いてやる。そのかわり、原稿料は倍付けだぞッ!」
男の真の姿を書き綴り、世の少年たちの心を魅了し、日本が世界に誇る漫画・劇画を進化発展させた巨匠、故・梶原一騎先生は、その実像もまた、本当に真の「漢−おとこ−」だったと言えましょう……
2006/05/07
読者投稿・心霊体験パート3
千代田区にある小社、少年画報社の社屋ビルは、昭和34年に建てられました。その年は、今の天皇皇后両陛下ご夫妻が皇太子時代にご成婚を挙げた年です。つまり、今から47年前、現在の皇太子殿下が生まれる前という昔に出来た古い建築物です。今でこそ、周囲を取り巻く近代的ビル群に埋もれてしまっていますが、当時としてはモダンな設計の茶色いレンガ壁の建物で、昔は、別名「赤胴ビル」と呼ばれていました。(解る人は解ってくれるでしょうね)
玄関ロビーを入ると、太い柱と重厚な壁、年代モノの階段の手すりやレトロなエレベーター……幾星霜もの年輪を重ねたその古い壁には、出版界の喜怒哀楽が人間の顔の皺のように刻まれています。
それで、まあ……その……小社のその古いビルには、出るんですな。アレが。はい。アレです……そう、例のヒュ〜〜、ドロドロってやつが……
(何人もの社員が目撃しているとの報告です)
そんな小社の恐怖と怪奇大好き編集部が、心底から怖い身も凍るような漫画の本をこの5月10日に出します。昨年夏にパート1を出して予想以上の好評を博し、勢いでこの1月の真冬にパート2を出して、それもまたまた評判良く、その結果をバネにして、一気に怒涛のシリーズ化をしてしまったという「読者投稿・心霊体験」(高港基資ホラー傑作選)パート3【怪の通る道】です。

YKベスト コミックス【CVS向け廉価版ペーパーバックスタイルコミックス】
読者投稿 心霊体験 3 “怪の通る道”
高港基資ホラー傑作選3
5月10日(水)発売 定価 330円(税込)
● 母を射すくめる黄泉からの視線……
だが、悪意に魅入られたのは、彼女ではなかった……
異才、高港基資が描く絶対的恐怖世界……
キャ〜〜〜〜!! ひいいいい〜〜〜
■ 恐怖怪奇ファンの読者の皆様を絶叫させるアノ「心霊体験」の本が、ますます過激度をパワーアップさせて、第3弾が恐怖と怒濤の発売です。
◆ ゴールデンウィークが終わってホッとひと息のアナタの背中に、そっと忍び寄る異形の影・・・
さあ、おもいっきり叫んでください。キャ〜〜ッッ! 怖ぃぃぃぃぃ〜!!
★ 巻頭に高港基資新作描き下ろし作品収録。
◆ 呪いやタタリが怖い人や、心臓の弱い人のために、この本は、心霊写真を使った表紙の片隅に、霊験ある神社の「お守り」を掲げています。
● この「読者投稿・心霊体験」は、コンビニ向けのペーパーバックスタイルのコミックスです。一般のコミックス単行本と違って、配本先はコンビニエンス中心です。また、コンビニ店頭での初版売り切りで、出版社では在庫ストックをほとんど持ちません。悪しからずご了解ください。
玄関ロビーを入ると、太い柱と重厚な壁、年代モノの階段の手すりやレトロなエレベーター……幾星霜もの年輪を重ねたその古い壁には、出版界の喜怒哀楽が人間の顔の皺のように刻まれています。
それで、まあ……その……小社のその古いビルには、出るんですな。アレが。はい。アレです……そう、例のヒュ〜〜、ドロドロってやつが……
(何人もの社員が目撃しているとの報告です)
そんな小社の恐怖と怪奇大好き編集部が、心底から怖い身も凍るような漫画の本をこの5月10日に出します。昨年夏にパート1を出して予想以上の好評を博し、勢いでこの1月の真冬にパート2を出して、それもまたまた評判良く、その結果をバネにして、一気に怒涛のシリーズ化をしてしまったという「読者投稿・心霊体験」(高港基資ホラー傑作選)パート3【怪の通る道】です。
YKベスト コミックス【CVS向け廉価版ペーパーバックスタイルコミックス】
読者投稿 心霊体験 3 “怪の通る道”
高港基資ホラー傑作選3
5月10日(水)発売 定価 330円(税込)
● 母を射すくめる黄泉からの視線……
だが、悪意に魅入られたのは、彼女ではなかった……
異才、高港基資が描く絶対的恐怖世界……
キャ〜〜〜〜!! ひいいいい〜〜〜
■ 恐怖怪奇ファンの読者の皆様を絶叫させるアノ「心霊体験」の本が、ますます過激度をパワーアップさせて、第3弾が恐怖と怒濤の発売です。
◆ ゴールデンウィークが終わってホッとひと息のアナタの背中に、そっと忍び寄る異形の影・・・
さあ、おもいっきり叫んでください。キャ〜〜ッッ! 怖ぃぃぃぃぃ〜!!
★ 巻頭に高港基資新作描き下ろし作品収録。
◆ 呪いやタタリが怖い人や、心臓の弱い人のために、この本は、心霊写真を使った表紙の片隅に、霊験ある神社の「お守り」を掲げています。
● この「読者投稿・心霊体験」は、コンビニ向けのペーパーバックスタイルのコミックスです。一般のコミックス単行本と違って、配本先はコンビニエンス中心です。また、コンビニ店頭での初版売り切りで、出版社では在庫ストックをほとんど持ちません。悪しからずご了解ください。
2006/04/08
グリーン車の大人
会社への朝晩の通勤に使っているJRの普通電車には、定期券にグリーン料金だけ足せば乗れる2階建てグリーン車が2両連結されているのでした。実はこっそり告白しますと、このワタシは、時々このグリーン車を愛好している人間なのであります。
そんな事言ってると、カルロスの野郎エラソーに、なんて叩かれそうですが、それはそれ、大きな誤解・曲解であります。
そもそも、今時のグリーン車に乗る通勤サラリーマンは、けっして、金持ちの業突く張りオヤジやVIP待遇のお偉いさんばかりではないのであります。
大枚750円や900円も余計に出してリクライニングシートに座る人の中には、時間と体力を有効に効果的に使おうという実利的な人たちがかなりいるのです。
例えば……前の晩に深酒をして午前様になってしまい、翌朝に二日酔いで寝不足でヘロヘロになっている人(あはは。これはつまりワタシだ)。
また、座ってゆっくり本を読みたい読書家の人。時間が無かったので、車内で朝ご飯を食べている健康志向の人。パソコンを広げて熱心に仕事している企業戦士。痴漢被害を避けるために、混んだ普通車の方から逃げて来たOL。……などなど。
こういった人たちは、失礼ながら申し上げると、たぶんけっしてサイフの中がそんなに豊かなわけではないでしょう。20代の若い人だってかなりいます。そういった人々は、お昼の食事代や喫茶店のコーヒー代や、恋人とのデート代やアフターファイブの趣味のパチンコ代などを切り詰めてでも、グリーン車の座席を選ぶのだと推察します。それに見合うほどの気持ちの余裕が、あの2階建ての車内で得られるのだと思います。
ワタシの見た雑感ですが、2階席を必ず選ぶ人は、ちょっと見栄っ張りの人みたいですね。それに対して、下の方の1階を毎回選ぶ人は、ゆったり仮眠派と読書派が多いみたいです。(下の方が、重心が低くて揺れないし、各席に読書灯が付いているのです)
JR東日本も、こんな通勤電車への着席車両投入、うまくマーケティング調査した結果なんだなと感心してしまいましたが、それにしても、最近では、電車によっては、グリーン車が満席で座れない時も多々あります。
(それで、アテンダントの女性に喰ってかかっているオヤジがたまにいます。アテンダントの女性たちも仕事とはいえ、辛そうで可哀相です。だいたい、彼女たちはJRの「車掌」ではなく、JR系列の子会社の職員なんでしょうから……)
ともあれ、いろいろな様々な喜怒哀楽を乗せて、2階建てグリーン車は、今日も武蔵平野をひた走ります。
そして、リクライニングシートを倒して、大イビキこいてる人たちの中には、我が出版業界で働く企業戦士たちのご同輩諸兄姉の顔を、時たま見る事ができます。
みなさん、お疲れ様。今日も、お互いがんばりましょうね……
そんな事言ってると、カルロスの野郎エラソーに、なんて叩かれそうですが、それはそれ、大きな誤解・曲解であります。
そもそも、今時のグリーン車に乗る通勤サラリーマンは、けっして、金持ちの業突く張りオヤジやVIP待遇のお偉いさんばかりではないのであります。
大枚750円や900円も余計に出してリクライニングシートに座る人の中には、時間と体力を有効に効果的に使おうという実利的な人たちがかなりいるのです。
例えば……前の晩に深酒をして午前様になってしまい、翌朝に二日酔いで寝不足でヘロヘロになっている人(あはは。これはつまりワタシだ)。
また、座ってゆっくり本を読みたい読書家の人。時間が無かったので、車内で朝ご飯を食べている健康志向の人。パソコンを広げて熱心に仕事している企業戦士。痴漢被害を避けるために、混んだ普通車の方から逃げて来たOL。……などなど。
こういった人たちは、失礼ながら申し上げると、たぶんけっしてサイフの中がそんなに豊かなわけではないでしょう。20代の若い人だってかなりいます。そういった人々は、お昼の食事代や喫茶店のコーヒー代や、恋人とのデート代やアフターファイブの趣味のパチンコ代などを切り詰めてでも、グリーン車の座席を選ぶのだと推察します。それに見合うほどの気持ちの余裕が、あの2階建ての車内で得られるのだと思います。
ワタシの見た雑感ですが、2階席を必ず選ぶ人は、ちょっと見栄っ張りの人みたいですね。それに対して、下の方の1階を毎回選ぶ人は、ゆったり仮眠派と読書派が多いみたいです。(下の方が、重心が低くて揺れないし、各席に読書灯が付いているのです)
JR東日本も、こんな通勤電車への着席車両投入、うまくマーケティング調査した結果なんだなと感心してしまいましたが、それにしても、最近では、電車によっては、グリーン車が満席で座れない時も多々あります。
(それで、アテンダントの女性に喰ってかかっているオヤジがたまにいます。アテンダントの女性たちも仕事とはいえ、辛そうで可哀相です。だいたい、彼女たちはJRの「車掌」ではなく、JR系列の子会社の職員なんでしょうから……)
ともあれ、いろいろな様々な喜怒哀楽を乗せて、2階建てグリーン車は、今日も武蔵平野をひた走ります。
そして、リクライニングシートを倒して、大イビキこいてる人たちの中には、我が出版業界で働く企業戦士たちのご同輩諸兄姉の顔を、時たま見る事ができます。
みなさん、お疲れ様。今日も、お互いがんばりましょうね……
2006/04/01
一杯のかけそば、ならぬ、一冊のエッチコミック
栃木県のある街で、書店で同じタイトルのコミックを何冊も買う年輩のご婦人がいたそうです。一軒で5冊から10冊くらいのまとめ買い。次のお店に行っても、同じように同じ本をどっさり買い込んで行きます。
すわ、これはもしかして新古書店の回し者か? はたまた教育委員会の怖い調査員か? と、不審に思った店員が、たまらず声を掛けたのだそうです。なにしろ、その本はいわゆるエッチコミックと呼ばれる代物で、年輩のご婦人が買うような物ではなかったのですから。
店員の問いに、そのご婦人は、はにかみながらも答えてくれたそうです。
「……すいません。……実は、これって、家を出て行った私の息子の、初めてのデビュー作なんです……」
そのお母さんは、その昔、「俺ぁ、漫画家になる!」と息巻いて家を出て行った我が息子の身を案じていたのでしょう。その親子の間にどんな葛藤と悶着があったのか、想像に難くありません……
念願がかなって、その息子さんはデビューをはたしたのでありました。そして、初めての単行本コミックスが発売になった時、うれしくて、故郷の年老いた母は、地元の書店をハシゴしてしまったのです。懸命に買い漁った本は、親戚一同にでも配るつもりなのでしょうか。でも、それは、きっとできないでしょうと思うのだけれど……
いや、たぶんなのでしょうけど、そのお母さんは、自分の息子のデビュー作コミックスを買い上げて、本の実売率を高め、息子の実成績を上げてやろうと考えたのかもしれません。それもまた、涙の出るような母の「愛」であります……
いずれにせよ、その本は実際に売れ行き良好で重版もかかり、不肖の息子は、故郷の年老いた母に、大きな「親孝行」を果たしたのでありました。
すわ、これはもしかして新古書店の回し者か? はたまた教育委員会の怖い調査員か? と、不審に思った店員が、たまらず声を掛けたのだそうです。なにしろ、その本はいわゆるエッチコミックと呼ばれる代物で、年輩のご婦人が買うような物ではなかったのですから。
店員の問いに、そのご婦人は、はにかみながらも答えてくれたそうです。
「……すいません。……実は、これって、家を出て行った私の息子の、初めてのデビュー作なんです……」
そのお母さんは、その昔、「俺ぁ、漫画家になる!」と息巻いて家を出て行った我が息子の身を案じていたのでしょう。その親子の間にどんな葛藤と悶着があったのか、想像に難くありません……
念願がかなって、その息子さんはデビューをはたしたのでありました。そして、初めての単行本コミックスが発売になった時、うれしくて、故郷の年老いた母は、地元の書店をハシゴしてしまったのです。懸命に買い漁った本は、親戚一同にでも配るつもりなのでしょうか。でも、それは、きっとできないでしょうと思うのだけれど……
いや、たぶんなのでしょうけど、そのお母さんは、自分の息子のデビュー作コミックスを買い上げて、本の実売率を高め、息子の実成績を上げてやろうと考えたのかもしれません。それもまた、涙の出るような母の「愛」であります……
いずれにせよ、その本は実際に売れ行き良好で重版もかかり、不肖の息子は、故郷の年老いた母に、大きな「親孝行」を果たしたのでありました。
2006/03/19
「四万部」祈願の寺
週末、埼玉県の秩父の方へドライブしました。
秩父へのドライブというと、東京や浦和・大宮方面からクルマで行く場合、だいたい二通りの行程が選ばれます。
まず、関越道を走って川越・東松山と過ぎ、花園インターで降りて、下の国道140号を寄居・長瀞と走っていくコース。これだと、荒川の中流に沿って大きく埼玉県内を逆U字に回りこむ形で多少時間が掛かりますが、道はアップダウンが少なく、途中に観光地や見所も多く、カップルや家族連れに喜ばれるオーソドックスコース。
もう一つの選択は、国道16号から飯能に出て、そこから国道299号を行く正丸峠越えの山岳ルート。これは、西武鉄道の秩父線と平行しているので、ショートカットコースとして、時間を急ぐドライバーに選ばれます。ルート299号はけっこうカーブの多い山道なのですが、今は車線も広く整備されて、ピークの正丸峠は長い正丸トンネルで一気に突き抜けられます。その先は、もう秩父盆地がすぐそこにあります。
この二つのコースがだいたいポプュラーな秩父行きの道程なのですが、ワタシみたいな埼玉在住のジモティドライバーは、行楽シーズンに大渋滞になるのを避けて、空いている裏道を通ります。
その裏道が、小川町や都幾川町から秩父へ抜ける「定峰峠」越えです。
この定峰峠は、狭い県道のワインディングロードなのですが、腕に自信のある人間なら、そんな労苦もなく通り抜けられる道です。(定峰峠は桜並木が美しい隠れた名所でもある)
標高の高い峠のピークから、くねくねと続くブラインドカーブを一気に駆け降りて行けば、そこはもう、秩父盆地の真っ只中。浦和や大宮や所沢などの都市部とはまったく違った、のどかなゆったりと時と風の流れる素晴らしい「埼玉県」の真髄がそこにあります。
そして、その定峰峠越えから道を降り切った盆地の平野部の最初の所にひっそりと佇むのが、知る人ぞ知る「秩父札所巡り」三十四ヵ所の一番最初の札所、「四萬部寺」という古刹。
秩父札所第一番「四萬部寺」は、もちろん「よんまんぶじ」と読むのではありません。これは「しまぶじ」と読むのです。寺の名前の由来は、大昔、偉いお坊さんが四万部の経典を読んで観音像をご本尊にしたとかどうたらこうたらですが、寺名の読み方は別として、まあつまりは、その「四萬部」は「よんまんぶ」という事であながち間違いではないのでしょう。
という事で、このワタシは、20代の時に初めて訪れた時から今に至るまで、秩父に行く度に、この栄えある秩父札所第一番、「四萬部寺」に立ち寄り、その古刹に参詣し、そして、護摩を焚きお賽銭をあげ、ご本尊に手を合わせるのであります。
口の中でもごもご唱える願い事は、もちろんこうです。
―――「我が社の今度の新刊コミックスが、どうか、どうか、重版が4万部くらい掛かるほど売れますように……」
笑わんといてください! こんなキビシーご時世です。ホトケ様や観音様にすがったっていいでしょう。ゲンを担いだっていいでしょう。いろいろ現金な図々しいお願い事をしたって、仏罰は下らないと思います。
という事で、出版業界に関わる世の多くの執筆者の方々や業界人各位は、秩父に行ったら、ぜひ、このご利益のある「四萬部寺」にお参りしましょう。
ん? 何? 「四十万」部や「四百万」部の名前の付いた寺はないのかって? そんな、あなた、贅沢言ってちゃイケませんですよ……
(余談ですが、この秩父札所巡りの中には、この他に、「音楽寺」という名前の札所があります。ここは、実際に、売り出し中の演歌歌手や、ミュージシャンのタマゴの人や、音楽関係の人がよく参拝するのだそうです)
秩父へのドライブというと、東京や浦和・大宮方面からクルマで行く場合、だいたい二通りの行程が選ばれます。
まず、関越道を走って川越・東松山と過ぎ、花園インターで降りて、下の国道140号を寄居・長瀞と走っていくコース。これだと、荒川の中流に沿って大きく埼玉県内を逆U字に回りこむ形で多少時間が掛かりますが、道はアップダウンが少なく、途中に観光地や見所も多く、カップルや家族連れに喜ばれるオーソドックスコース。
もう一つの選択は、国道16号から飯能に出て、そこから国道299号を行く正丸峠越えの山岳ルート。これは、西武鉄道の秩父線と平行しているので、ショートカットコースとして、時間を急ぐドライバーに選ばれます。ルート299号はけっこうカーブの多い山道なのですが、今は車線も広く整備されて、ピークの正丸峠は長い正丸トンネルで一気に突き抜けられます。その先は、もう秩父盆地がすぐそこにあります。
この二つのコースがだいたいポプュラーな秩父行きの道程なのですが、ワタシみたいな埼玉在住のジモティドライバーは、行楽シーズンに大渋滞になるのを避けて、空いている裏道を通ります。
その裏道が、小川町や都幾川町から秩父へ抜ける「定峰峠」越えです。
この定峰峠は、狭い県道のワインディングロードなのですが、腕に自信のある人間なら、そんな労苦もなく通り抜けられる道です。(定峰峠は桜並木が美しい隠れた名所でもある)
標高の高い峠のピークから、くねくねと続くブラインドカーブを一気に駆け降りて行けば、そこはもう、秩父盆地の真っ只中。浦和や大宮や所沢などの都市部とはまったく違った、のどかなゆったりと時と風の流れる素晴らしい「埼玉県」の真髄がそこにあります。
そして、その定峰峠越えから道を降り切った盆地の平野部の最初の所にひっそりと佇むのが、知る人ぞ知る「秩父札所巡り」三十四ヵ所の一番最初の札所、「四萬部寺」という古刹。
秩父札所第一番「四萬部寺」は、もちろん「よんまんぶじ」と読むのではありません。これは「しまぶじ」と読むのです。寺の名前の由来は、大昔、偉いお坊さんが四万部の経典を読んで観音像をご本尊にしたとかどうたらこうたらですが、寺名の読み方は別として、まあつまりは、その「四萬部」は「よんまんぶ」という事であながち間違いではないのでしょう。
という事で、このワタシは、20代の時に初めて訪れた時から今に至るまで、秩父に行く度に、この栄えある秩父札所第一番、「四萬部寺」に立ち寄り、その古刹に参詣し、そして、護摩を焚きお賽銭をあげ、ご本尊に手を合わせるのであります。
口の中でもごもご唱える願い事は、もちろんこうです。
―――「我が社の今度の新刊コミックスが、どうか、どうか、重版が4万部くらい掛かるほど売れますように……」
笑わんといてください! こんなキビシーご時世です。ホトケ様や観音様にすがったっていいでしょう。ゲンを担いだっていいでしょう。いろいろ現金な図々しいお願い事をしたって、仏罰は下らないと思います。
という事で、出版業界に関わる世の多くの執筆者の方々や業界人各位は、秩父に行ったら、ぜひ、このご利益のある「四萬部寺」にお参りしましょう。
ん? 何? 「四十万」部や「四百万」部の名前の付いた寺はないのかって? そんな、あなた、贅沢言ってちゃイケませんですよ……
(余談ですが、この秩父札所巡りの中には、この他に、「音楽寺」という名前の札所があります。ここは、実際に、売り出し中の演歌歌手や、ミュージシャンのタマゴの人や、音楽関係の人がよく参拝するのだそうです)
2006/03/12
北の港町の天使たち
あれは、今から20年も以前、まだ津軽海峡に青函連絡船が就航していた頃、当時勤めていた出版社の販売促進営業の仕事で、出張で真冬の北海道へ行った時の事……
札幌から千歳、苫小牧、室蘭と回り、ディーゼルのローカル列車に長々と揺られて、夜も遅い時間、ようやく函館にたどりついたワタシは、疲れた足を引きずっていました。
青函連絡船乗り場の桟橋に急ぐ旅人たちに背を向け、古い函館駅の改札口を出ると、外は雪がちらついていました。
慣れない雪道にヨロヨロと滑りながら、ワタシは、早く宿を取り、ベッドに横になりたい気持ちでいっぱいでした。
駅前のデパートの後ろにある、小さな横丁の奥の煤けたビジネスホテルに入ったワタシは、部屋の鍵を受け取り、エレベーターの中に倒れ込みました。5階にある自室に行く前に、それでも、自販機でビールを買うのだけは怠りませんでした。
ホテルの部屋の窓から見える北の港町の夜景は、実に美しいものでした。降りしきる雪と、雪明りに映える家々の灯り。遠くから時折聞こえて来る霧笛の音……
ワタシは、そんな窓外の雪景色を見ているうちに、ふと視線を下に落としました。そのホテルの裏側の路地は、怪しげな歓楽街になっていました。厚く降り積もった雪の中に、ネオンが眩しく瞬いていました。
ネオンの中から、雪を踏むサクサクという音が聞こえて来ました。女性たちの話し声が聞こえて来ました。彼女らは、とある店の前にたむろしていました。どうやらそこは、ちょっとアヤしい類の店のようで、彼女らはいわゆる「立ちんぼ」さんと呼ばれる女性のようでありました……
降りしきる雪、うら寂れた歓楽街。サイレントナイト。客は誰も来ない……きっと誰も来ない……
女性たちはそれでも、息を白くハアハア吐きながら、待っていました。ゴム長を履いて、傘もささず、雪をサクサク踏みながら……手袋をして防寒具をまとった夜の女性たち……いじましくも逞しい北の港町に生きる女性たち……
「……まったくもう、シケてんね」
「……今夜は、やっぱりダメだんべかな」
彼女たちの声が聞こえて来ました。手袋嵌めた手をゴシゴシと擦りあわせながら……
頭上のホテルの窓際で、ワタシはずっとずっと、彼女らを見つめていました。
なぜか胸を打たれていました。北の港町のこんな場末で、敬虔なものを見たような気がしました。まさに、「天使」を見たような気がして来ました
そりゃあ、その女性たちは、それは実際には、けっしてそんな天使のような連中ではないかもしれません。天使というより、はすっぱな性悪女の「ボッタクリ魔女」なのかもしれません。でもしかし、寒さに凍えながらも、彼女たちは、こうして現実に街角に立っているのです。雪をサクサクと踏みしめているのです……
生活のため? 生きて行くため? というか、彼女らにそんな難しい問いは必要ないでありましょう。雪だろうが嵐だろうが、彼女らはそこに立ち続け、男たちを待ち続ける。それが当たり前の毎日であるかのように……いや、これはけっして差別的感覚で物を言っているのではなく、純粋に観念論で言っているのです。ワタシは。
やがて、一人の天使の女性が、息を白く大きく吐きながら大あくびをしました。あくびしながら、上空を見上げました。
……ワタシと目が合いました。彼女はニッコリと笑いました。「降りておいでよッ!!」と大声でワタシに言いました。
頭上の寂しい旅人の男もニッコリと笑い返しました。よせばいいのに、投げキッスまで送ってやりました。
ゴム長を履いた雪まみれの天使たちは、キャッキャとはしゃぎながら、やっと見つけた今夜の有難い客に、手を振って来ました……
そして、
天使は、やっぱり、案の定、ボッタクリ魔女でした……
でも、まあ……いいいでしょう。天使も魔女も、神も悪魔も、表裏一体で似たようなもんです……
いずれにせよ、どんな形であれ、北の大地の片隅で、ほんの少しでも心を癒された事は確かでした……
札幌から千歳、苫小牧、室蘭と回り、ディーゼルのローカル列車に長々と揺られて、夜も遅い時間、ようやく函館にたどりついたワタシは、疲れた足を引きずっていました。
青函連絡船乗り場の桟橋に急ぐ旅人たちに背を向け、古い函館駅の改札口を出ると、外は雪がちらついていました。
慣れない雪道にヨロヨロと滑りながら、ワタシは、早く宿を取り、ベッドに横になりたい気持ちでいっぱいでした。
駅前のデパートの後ろにある、小さな横丁の奥の煤けたビジネスホテルに入ったワタシは、部屋の鍵を受け取り、エレベーターの中に倒れ込みました。5階にある自室に行く前に、それでも、自販機でビールを買うのだけは怠りませんでした。
ホテルの部屋の窓から見える北の港町の夜景は、実に美しいものでした。降りしきる雪と、雪明りに映える家々の灯り。遠くから時折聞こえて来る霧笛の音……
ワタシは、そんな窓外の雪景色を見ているうちに、ふと視線を下に落としました。そのホテルの裏側の路地は、怪しげな歓楽街になっていました。厚く降り積もった雪の中に、ネオンが眩しく瞬いていました。
ネオンの中から、雪を踏むサクサクという音が聞こえて来ました。女性たちの話し声が聞こえて来ました。彼女らは、とある店の前にたむろしていました。どうやらそこは、ちょっとアヤしい類の店のようで、彼女らはいわゆる「立ちんぼ」さんと呼ばれる女性のようでありました……
降りしきる雪、うら寂れた歓楽街。サイレントナイト。客は誰も来ない……きっと誰も来ない……
女性たちはそれでも、息を白くハアハア吐きながら、待っていました。ゴム長を履いて、傘もささず、雪をサクサク踏みながら……手袋をして防寒具をまとった夜の女性たち……いじましくも逞しい北の港町に生きる女性たち……
「……まったくもう、シケてんね」
「……今夜は、やっぱりダメだんべかな」
彼女たちの声が聞こえて来ました。手袋嵌めた手をゴシゴシと擦りあわせながら……
頭上のホテルの窓際で、ワタシはずっとずっと、彼女らを見つめていました。
なぜか胸を打たれていました。北の港町のこんな場末で、敬虔なものを見たような気がしました。まさに、「天使」を見たような気がして来ました
そりゃあ、その女性たちは、それは実際には、けっしてそんな天使のような連中ではないかもしれません。天使というより、はすっぱな性悪女の「ボッタクリ魔女」なのかもしれません。でもしかし、寒さに凍えながらも、彼女たちは、こうして現実に街角に立っているのです。雪をサクサクと踏みしめているのです……
生活のため? 生きて行くため? というか、彼女らにそんな難しい問いは必要ないでありましょう。雪だろうが嵐だろうが、彼女らはそこに立ち続け、男たちを待ち続ける。それが当たり前の毎日であるかのように……いや、これはけっして差別的感覚で物を言っているのではなく、純粋に観念論で言っているのです。ワタシは。
やがて、一人の天使の女性が、息を白く大きく吐きながら大あくびをしました。あくびしながら、上空を見上げました。
……ワタシと目が合いました。彼女はニッコリと笑いました。「降りておいでよッ!!」と大声でワタシに言いました。
頭上の寂しい旅人の男もニッコリと笑い返しました。よせばいいのに、投げキッスまで送ってやりました。
ゴム長を履いた雪まみれの天使たちは、キャッキャとはしゃぎながら、やっと見つけた今夜の有難い客に、手を振って来ました……
そして、
天使は、やっぱり、案の定、ボッタクリ魔女でした……
でも、まあ……いいいでしょう。天使も魔女も、神も悪魔も、表裏一体で似たようなもんです……
いずれにせよ、どんな形であれ、北の大地の片隅で、ほんの少しでも心を癒された事は確かでした……
2006/02/25
ネクタイに革靴
出版社への就職を目指す大学生は、その90%以上の人は、編集者希望です。
憧れの出版社に入って、自分の手でオモシロイ本を創りたいという大望と大志を抱いてやって来ます。
しかし、現実はそんなに甘くありません。入社後に研修期間を経て、自分の配属先が決まって、愕然悄然としたりします。
そう、憧れの華の編集部に配属されず、別の分野の部署、例えば営業部や販売促進部、総務経理部や業務管理部といった所に行かされてしまうのです。
そもそも、出版社というのは、モノを製造して、それを問屋や小売店に販売する出版物の「メーカー企業」に過ぎません。
メーカー企業なのであれば、当然、そこにはモノを企画制作する編集部門と、出来上がったモノを販売する販売営業部門と、出来上がったモノを広く世間に知らしめる広告宣伝部門と、それらを統括制御する総務経理管理部門という4つの基本の柱が存在します。
大学を出たばかりのヒヨッ子の新人君は、華やかな編集部門や宣伝部門への憧れはあっても、地味な販売営業の業務内容や総務経理管理部門の業務内容については、ほとんど無知に等しいものです。出版物がどうやって街の本屋さんやコンビニエンスに配本されて行くのか、本を卸した代金がどうやって出版社に支払われて来るのか、「返品率」や「再販制度」って何なのか、それらの大切な基本事項を学生時代に詳しく勉強した人間は、おそらく数えるほどしかいないでしょう。
結果、毎年の事ですが、出版業界のあちこちで、一年中、「五月病」に掛かる人間が出て来ます。意に反した部署に配属されて、ひとりで勝手に悩んでしまうのです。
では、なぜ、人はそんなに悩んでしまうのでしょうか?
実は、ひとくちに出版業界と言っても、この編集分野と販売営業部門の間には、大きな深い川が流れていると言われています。
編集者は、小説家や漫画家やライターやデザイナーといった自由業の人を相手にしているために、勤務時間は比較的自由に取れて、また、服装や髪型なども自由な所が多いはずです。どんな派手な格好をしようが、どんなに言葉使いが乱暴であろうが、要は、結果が良ければすべて良しという考え方が基本にあります。
それに対して、販売営業部門の社員は、「カタギ」の人間である取次会社や書店やコンビニのバイヤーといった人々を相手にするために、勤務時間や服装や言動に、世間の一般常識的な制約が掛かるのです。仕事の結果で評価されるのは編集者と同じですが、それ以外に、「風体」というのも大切な評価になります。そのため、ネクタイに地味な色のビジネススーツ、革靴にきちんとした髪型、きちんとした挨拶やお辞儀の姿勢が、販売営業マンの基本とされるわけです。
これが、若い人には我慢ならないみたいです。サラリーマンみたいで格好悪い。ダサい。地味でつまらない……
しかし、本来、Tシャツにジーンズにスニーカーで交渉事ができるほど、日本のビジネス界はどこもまだまだフランクではないのです。それは、あの例のライブドアの元・社長サンが、ネクタイにスーツ姿の年長の常識人たちに袋叩きにされて沈んで行った例を見れば明らかでしょう。
世間の一般的なスタンダード組織を相手に仕事や交渉事をするには、相手と同じ土俵に立ち、地味なスーツを着てネクタイを締めて革靴を履く。これは仕方ない事なのです。これは戦略だと割り切ればいいのです……
たとえ地味なドブネズミルックであっても、魂は、サラリーマンではなく、自分は「本の職人」であるという誇りと自負を持って事にあたればいいと思います。
世の大志溢れる青年諸君、がんばってください。
そして、どんな時も、どんな所に身を置いていても、大望と大志と夢を忘れずに。
憧れの出版社に入って、自分の手でオモシロイ本を創りたいという大望と大志を抱いてやって来ます。
しかし、現実はそんなに甘くありません。入社後に研修期間を経て、自分の配属先が決まって、愕然悄然としたりします。
そう、憧れの華の編集部に配属されず、別の分野の部署、例えば営業部や販売促進部、総務経理部や業務管理部といった所に行かされてしまうのです。
そもそも、出版社というのは、モノを製造して、それを問屋や小売店に販売する出版物の「メーカー企業」に過ぎません。
メーカー企業なのであれば、当然、そこにはモノを企画制作する編集部門と、出来上がったモノを販売する販売営業部門と、出来上がったモノを広く世間に知らしめる広告宣伝部門と、それらを統括制御する総務経理管理部門という4つの基本の柱が存在します。
大学を出たばかりのヒヨッ子の新人君は、華やかな編集部門や宣伝部門への憧れはあっても、地味な販売営業の業務内容や総務経理管理部門の業務内容については、ほとんど無知に等しいものです。出版物がどうやって街の本屋さんやコンビニエンスに配本されて行くのか、本を卸した代金がどうやって出版社に支払われて来るのか、「返品率」や「再販制度」って何なのか、それらの大切な基本事項を学生時代に詳しく勉強した人間は、おそらく数えるほどしかいないでしょう。
結果、毎年の事ですが、出版業界のあちこちで、一年中、「五月病」に掛かる人間が出て来ます。意に反した部署に配属されて、ひとりで勝手に悩んでしまうのです。
では、なぜ、人はそんなに悩んでしまうのでしょうか?
実は、ひとくちに出版業界と言っても、この編集分野と販売営業部門の間には、大きな深い川が流れていると言われています。
編集者は、小説家や漫画家やライターやデザイナーといった自由業の人を相手にしているために、勤務時間は比較的自由に取れて、また、服装や髪型なども自由な所が多いはずです。どんな派手な格好をしようが、どんなに言葉使いが乱暴であろうが、要は、結果が良ければすべて良しという考え方が基本にあります。
それに対して、販売営業部門の社員は、「カタギ」の人間である取次会社や書店やコンビニのバイヤーといった人々を相手にするために、勤務時間や服装や言動に、世間の一般常識的な制約が掛かるのです。仕事の結果で評価されるのは編集者と同じですが、それ以外に、「風体」というのも大切な評価になります。そのため、ネクタイに地味な色のビジネススーツ、革靴にきちんとした髪型、きちんとした挨拶やお辞儀の姿勢が、販売営業マンの基本とされるわけです。
これが、若い人には我慢ならないみたいです。サラリーマンみたいで格好悪い。ダサい。地味でつまらない……
しかし、本来、Tシャツにジーンズにスニーカーで交渉事ができるほど、日本のビジネス界はどこもまだまだフランクではないのです。それは、あの例のライブドアの元・社長サンが、ネクタイにスーツ姿の年長の常識人たちに袋叩きにされて沈んで行った例を見れば明らかでしょう。
世間の一般的なスタンダード組織を相手に仕事や交渉事をするには、相手と同じ土俵に立ち、地味なスーツを着てネクタイを締めて革靴を履く。これは仕方ない事なのです。これは戦略だと割り切ればいいのです……
たとえ地味なドブネズミルックであっても、魂は、サラリーマンではなく、自分は「本の職人」であるという誇りと自負を持って事にあたればいいと思います。
世の大志溢れる青年諸君、がんばってください。
そして、どんな時も、どんな所に身を置いていても、大望と大志と夢を忘れずに。
2006/02/14
「湘爆」復活!
凍えるような冬の夜
目の前は湘南の海……
まっすぐ続く、ROUTE134
見上げれば、満天の星空
今、流れ星に2人の願いを……

あの名作「湘南爆走族」の平成版描き下ろし最新作品が、
20年の時を超えて、小社の雑誌に復活連載登場です!!
月刊「荒くれKNIGHT」マガジン
Vol. 2 【3/16号】(雑誌コード28269‐3/16)
2月16日(木)発売
定価350円(税込み)
【表紙は、あの「湘爆」江口洋助と、「荒くれ」善波七五十のツーショット!】
目の前は湘南の海……
まっすぐ続く、ROUTE134
見上げれば、満天の星空
今、流れ星に2人の願いを……

あの名作「湘南爆走族」の平成版描き下ろし最新作品が、
20年の時を超えて、小社の雑誌に復活連載登場です!!
月刊「荒くれKNIGHT」マガジン
Vol. 2 【3/16号】(雑誌コード28269‐3/16)
2月16日(木)発売
定価350円(税込み)
【表紙は、あの「湘爆」江口洋助と、「荒くれ」善波七五十のツーショット!】
2006/02/12
ダンシング・ウィズ・ミスターG
だいぶ昔の話ですが、当時ワタシが最初に勤めていたある出版社で、漫画をふんだんに入れたまったく新しいスタイルのゴルフ雑誌を出す事になり、その創刊記念パーティーを都内のホテルで盛大にやる事になりました。
ワタシは、会社の記録写真係を命じられ、その当時に出たばかりのミノルタのオートフォーカスカメラ(嗚呼、懐かしいね……)を首に下げ、会場内を泳ぐように歩いて回りました。
錚々たる政財界の名士や有名タレントやスポーツ選手たちが談笑する中、会場の片隅で小さく縮こまっている一団がありました。
よく見ると、それらの人々は、ワタシもよく知っている出版取次会社の招待客のお歴々でありました。トーハン(当時は東販)や日販や大阪屋さんや、その他各社の課長さんや係長さんたち日頃お世話になっている出版販売の現場の皆さんが、会場を埋めたキラ星のような超有名人や人気タレントを前に、緊張でビビりまくっています。
と、その近くを、その時、たまたま通りかかったある御仁がいました。
その御仁の姿を見て、某取次会社の某係長氏が思わずあげた歓声。
「あっ! 長嶋さんだッ!!!」
たちまち、わらわらと、取次会社様ご一行は、我らがミスタージャイアンツを取り囲みました。当の長嶋茂雄氏は困惑する事無く、一団の輪の中心でニコニコと笑顔を振りまきました。(当時、長嶋さんは第一期の巨人軍監督を辞めた後で、まだ浪人の身だった……)
そして、例の甲高い明るい声が、近くにいたこのワタシを手招きしました。
「……おーい、そこのカメラマン君。この人たちと一緒に、記念写真を一枚お願いしちゃっていいかな?」
子供の頃から偉大なる「背番号3」の背中を見て育ったワタシは、感激でブルブルと震えました。
「は、は、はいいいいっっっっ……」
体全体がダンスを踊ってるみたいに上下左右に震えるまま、ワタシはシャッターを切りました。でも、当時の最新式オートフォーカスカメラは、ミスターGの天心爛漫な笑顔を、手ブレする事なく、しっかりとフレームの中に記録してくれたのでした……
ワタシは、会社の記録写真係を命じられ、その当時に出たばかりのミノルタのオートフォーカスカメラ(嗚呼、懐かしいね……)を首に下げ、会場内を泳ぐように歩いて回りました。
錚々たる政財界の名士や有名タレントやスポーツ選手たちが談笑する中、会場の片隅で小さく縮こまっている一団がありました。
よく見ると、それらの人々は、ワタシもよく知っている出版取次会社の招待客のお歴々でありました。トーハン(当時は東販)や日販や大阪屋さんや、その他各社の課長さんや係長さんたち日頃お世話になっている出版販売の現場の皆さんが、会場を埋めたキラ星のような超有名人や人気タレントを前に、緊張でビビりまくっています。
と、その近くを、その時、たまたま通りかかったある御仁がいました。
その御仁の姿を見て、某取次会社の某係長氏が思わずあげた歓声。
「あっ! 長嶋さんだッ!!!」
たちまち、わらわらと、取次会社様ご一行は、我らがミスタージャイアンツを取り囲みました。当の長嶋茂雄氏は困惑する事無く、一団の輪の中心でニコニコと笑顔を振りまきました。(当時、長嶋さんは第一期の巨人軍監督を辞めた後で、まだ浪人の身だった……)
そして、例の甲高い明るい声が、近くにいたこのワタシを手招きしました。
「……おーい、そこのカメラマン君。この人たちと一緒に、記念写真を一枚お願いしちゃっていいかな?」
子供の頃から偉大なる「背番号3」の背中を見て育ったワタシは、感激でブルブルと震えました。
「は、は、はいいいいっっっっ……」
体全体がダンスを踊ってるみたいに上下左右に震えるまま、ワタシはシャッターを切りました。でも、当時の最新式オートフォーカスカメラは、ミスターGの天心爛漫な笑顔を、手ブレする事なく、しっかりとフレームの中に記録してくれたのでした……
